東京地方裁判所 昭和51年(ワ)11355号 判決
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【説明】
Xは昭和五〇年一二月三〇日、医師Yに両眼の二重瞼の線を二ミリメートル上に上げること等を内容とする美容整形手術を依頼し、Yは、同日、その旨の手術をしたところ、Xの角膜が糜爛し、眼の下が腫れあがる等の症状が発生した。
【判旨】
ところで、<証拠>によれば、兎眼症とは、外傷、先天性、眼窩腫瘍、バセドウ氏病、牛眼、角強膜葡萄腫、顔面神経麻痺等の理由により、眼瞼を閉鎖させても眼球が露出している状態の閉鎖機能障害をいい、兎眼症の結果、結膜及び角膜が常に外気に触れているため、流涙、眼球結膜の充血、角膜の乾燥・混濁等の症状を呈するものであるが、兎眼症による閉瞼不全は、半恒久的なものであつて、治療方法はなく、自然治癒も生じないものであることが認められる。
したがつて、仮りに、原告が、被告がなした眼瞼の皮膚及び脂胞の過剰切除により兎眼症に陥つたものとすれば、原告は、現在もなお兎眼症の状況にあるものというべきこととなる。
しかるに、<証拠>によれば、原告は、遅くとも昭和五二年六月二〇日には兎眼症及び角膜糜爛の症状を有せず、また、昭和五三年一〇月二五日においても眼球結膜、角膜、眼瞼結膜に異常所見はなく、覚醒時には閉瞼可能であつて角膜の露出ないし流涙はなく、睡眠時には長時間中時として右眼に0.7ないし1.0ミリメートルの角膜露出が生ずることがあるけれども、これによつて眼球に障害を来たすことはないことが認められる。
してみると、右事実に基づけば、原告は、一部の医師により兎眼症の診断を受けたものではあるが、現実には医学上の概念としての兎眼症には陥らなかつたものというほかはなく、<証拠判断略>。
したがつて、右によれば、原告は被告の手術によつて兎眼症に陥つたものではないのであるから、被告には、右手術について原告主張のような注意義務違反はなく、過失はないものといわなければならない。
四なお、<証拠>によれば、原告が角膜糜爛の症状に陥つたのは、兎眼症によるものではなく、上眼瞼の睫毛内反症(いわゆる逆睫)によるものであることが認められるが、<証拠>によれば、睫毛内反症は、上眼瞼の脂胞を切除する手術に伴い通常不可避的に生ずる症状であるところ、それは一過性のものであつて約一週間ないし二週間で回復するものであることが認められるから、原告が被告の手術によつて睫毛内反症による角膜糜爛の症状を呈したものであつても、前示のように右手術が原告の依頼に基づくものである以上、右症状は手術に伴う当然の副作用として、原告においてこれを受忍すべきものであり、これについて被告の過失責任を問うことはできないものといわなければならない。
(山口忍)